お侍様 小劇場 extra

   “仔猫のないしょ そのよん” 〜寵猫抄より


パンとかエビとかお芋につけた ちぃずのとろとろが、
あちあちだけど美味しかった ほんじゅ。(フォンデュです、お猫様)
キュウ兄ちゃと一緒に食べたの、ほんのちょっと前なのにね。
おコタにバイバイしたばっかしで、
アンヨが寒ム寒ムにならないようにって。
ホカホカの食べよーねってゆって食べたのに。

 あのね、今はなんか、
 アチアチのは食べたくないのね。

今はネ、そーめんとか ひゃーむぎとか、
ちょっとずつ、むにむにちるりん、すゆのが おーしーのvv
ちめたい とめいの(透明の)おドンブリに、
氷といっしょに ちゃぷんしてて。
ゆらゆら・かららんて、氷とあしょんで(遊んで)てね?
シチやシュマダは、じょーずに ちるちるが出来ゆけど、
キュウには まだむちゅかしーから。
ちむちむちむって、お口むにむにってして、
ちっとずつ ちるりんしゅるの。
ピンクのとか緑のとか、きれーで ちめたくって。
シチがはうぅ〜って嬉しそうにゆって。

  なちゅって いーよねぇvv





      ◇◇◇



最愛の炬燵を仕舞うかどうかで、
あんだけ神妙で愁嘆場な騒ぎになっていたのは、
一体何処のどどいつ様なやら。
(苦笑)
説得にとわざわざ遠来のお客様までお越しいただいたその日は、
決意が揺らがぬうちにと手早く片付けこそしたものの、
それでも今少し 足元がひんやりする案配でもあったので。
お昼ご飯とおやつを兼ねたお食事に、
七郎次がほっかほかのチーズフォンデュを拵えた。
グリュエールチーズとエメンタールを、
チーズ専用のおろし金で細かくおろし。
コーンスターチを分量加え、
お子様もいるので白ワインじゃあなく牛乳で、
ゆっくりゆっくりと煮溶かしたらば。
串に刺したフランスパンや、ゆでたアスパラ、ブロッコリ、
エビやソーセージ、ウズラの玉子にジャガイモなどなど、
くるりんと絡めたら、ふうふう吹きつついただいた。
大人にはちょっぴりコショウの利いた別鍋のを も一度からめて、
子供たちは揃って“猫舌”さんたちだったので、
(苦笑)
七郎次がそりゃあ気を配ってやっての、暖かな御馳走はだが、
ほんの数日経つと、すっかりと過去のものへとなってしまい。

 「…………………
zzzzzzzzzzzz

かつては炬燵のあった場所。
木蓮の梢に茂った若葉の陰がちろちろと躍る、
濃いこげ茶色の板の間の上へ、
屈託ない寝顔、少し仰のけにしたような格好で、
小さな坊やがくうくうと転た寝をしている。
小さな手足を奔放にあちこちへと投げ出して。
差し入る光にけぶる金絲の綿毛が、
白い額や水蜜桃のような頬を縁取るままにし。
小さな王子がくうすうと穏やかに寝入るその様を、
数歩分ほど離れたところ、ローテーブルへ開いたPCでの作業を進めつつ、
ちらちらと眺めちゃあ、口許ほころばしているのが、
当家の管理一切を任されている敏腕秘書殿で。

 “現金なもんだよな。”

仕舞っちゃうなんて絶対にいやいやと言わんばかり、
おコタの布団と一体化さえしていたような坊やだったものが。
急に初夏らしさが増したせいもあったとはいえ、
仕舞ってしまった翌日にはもう、
いいお日和のお庭へ、自分から“やっほう♪”と飛び出してくようになり。
柔らかな新芽ほど、日陰でも照ってるところのように明るくて、
そりゃあ発色のいい緑なの、1つ2つと数えるように。
茂みの間を駆け回ったり隠れんぼしたり、
白っぽかった蕾が淡い青へと色づき出したアジサイを、
わあと呟いてのお口を薄く開いて見上げたり。
そりゃあ楽しげに過ごしておいで。

 “それもこれも、キュウゾウくんのおかげだよな。”

泣かすのが辛いからと、
どうしても甘やかしてしまう七郎次では、なかなか切り出せずにいたこと。
小さな坊やが、それでも言葉を尽くして、
大事な弟分だから、言葉を尽くせばきっとと信じて、
相手からも自分からも逃げず、問題を逸らさず、
真摯にあたって下さっての、お見事に説得してしまった功は、
冗談抜きに見習わなきゃあと思い知らされた七郎次でもあって。

 「………にゅう。」

あまりに見つめ続けたことが刺激になってしまったか。
心地よさげにお昼寝していた小さな仔猫、
胸元に重なっていたお手々をはたりと落っことしたその弾み、
小さな頭をゆらりと起こし、辺りを見回し始める。

 「久蔵?」

こっちだよと呼びかけるような声をかければ、
よいちょと身を起こし、
床に手をついてふらふら起き上がった小さな和子が、
とたとた・とたんと、小さなあんよを投げ出すような様子で歩いて来。
霞がかかって見えるよな真っ白な頬に、
今はうっすらと上った血の気が、淡い朱を亳いてのそりゃあ愛らしく。
まだちょっと眠いのか、紅の双眸がゆるく潤んでいるのが、
夢見心地なのだろと思わせ、こちらへ思わずの微笑を誘う。
最後の一歩は、倒れ込むよなそれとなった坊やを、
お膝へよ〜しと受け止めて、

 「起っきしたか。どうする? お昼にしよっか?」

ハムと錦糸たまごとマカロニのサラダもあるし、
そうそう、久蔵の好きな冷や麦もあるぞ?
そうと話しかければ、ぱふりとうつ伏せていたお顔がパッと上がって、

 「にゃあにゃvv」
 「冷や麦にするのかい?」

お手々をついての身を起こし、
優しいおっ母様のお顔を見上げてくる様子の、
何とも甘くまろやかなことか。

 「何だ、このところの連日だな。」
 「あ、勘兵衛様。」

はぁくはぁくと先に立った久蔵に急かされるように、
居間から出たすぐの廊下でかち合ったのが、
今日は朝から、短編をしたためんと原稿に向かっていた勘兵衛であり。

  さすがにもう飽きられましたか?
  なんの、お主の工夫が楽しみでな。

温めてのにゅう麺にするなんてのは序の口で。
トッピングを変え、オリーブ油でイタリア風にしたり、
ゴマ油でゴーヤや卵と炒めてチャンプルーにしたり。
刺し身のツマのように切った大根と絡め、
さくさくという歯ごたえを楽しめるようにしたり。

 「でしたら残念、今日はさしたる工夫は考えておりませぬ。」
 「さようか? 確か、茗荷を求めておったろが。」

ああそうでした、あれを細切りにしてもいいですね。
途中からは勘兵衛がその腕へと抱き上げた仔猫の坊やが、
何のお話?と、二人のお顔を交互に見やり。
かっくりこと小首を傾げるその所作の稚さへと、
女房殿が はうぅと口許ほころばす。

 「…本当に惜しい話ですよねぇ。」

なんとも愛らしいお顔ばかりを見せる和子様。
でもでもこちらでは、その姿を写真に撮れない、
なんとも罪な身でおいで。
お気に入りの冷や麦を食べる姿なぞ、
大人の二人のように ちゅるるんと上手にすすり上げるのが出来ないらしく。
短いめに切っての箸へくるくると巻き付けてやって、
小さなお口へどうぞと運んで差し上げるのだが。
それでも余る端っこを、うぬむにとせわしくお口を動かして取り込む様が、
ちむちむちむと忙しい頑張りっぷりが。
間近に見ていて…もうもうもうvvと。
七郎次に新たな身もだえ運ぶ仕草となりつつあるらしく。

 「いっそそうめんを山ほど持って行かせて、
  あちらで食べるところを
  キュウゾウくんにデジカメへ収めてもらいましょうか。」
 「そこまでせんでも…。」

本人の姿はちゃんと直に拝めているのだからと、
勘兵衛が“おいおい”と窘めるところまでがワンセットの、
このところのいつもと変わらぬやり取りを交わし。
ダイニングへと向かった皆様を見送って、
初夏の陽気がよーく磨かれた窓辺へ躍ったのだった。





   〜Fine〜  2010.06.04.


  *いきなりコタツを仕舞ってますが、
   そこいらの詳細は藍羽様のサイト
  
Sugar Kingdom」さんにてvv

  *ところで、
   人の言葉も話せず、字も書けない久蔵くんですが、
   クレヨンでのお絵かきはなかなかに得意ですんで。
   オオルリさんへのお返事、シチさんが書いたのへ、
   ワンポイントを付け足すことがあったりして?

   「おや、久蔵ちゃんたら、蝶々と鬼ごっこしたんですねぇ。」
   「うん。お庭にね、紫のが時々飛んで来るんだって。」
   「……何でお主らには判るのだ。」

   カンベエ様に絵心があるとか無いとかいう次元の
   お話じゃないと思います。
(苦笑)

ご感想は こちらへvv めーるふぉーむvv

ご感想はこちらvv(拍手レスもこちら)


戻る